スイス ヨーデルについて

スイス、ドイツ、オーストリアと、ヨーロッパ・アルプス地方のドイツ語圏に発達したヨーデル。
その起源は、16〜17世紀といわれています。

アルプという山の牧草地に牛や山羊などを放牧するため、夏の間、山小屋に独りこもって過ごした牧童たちが交わした、牧童同士の、また下の村との連絡のための叫びから発達したと言われています。遠くまで届くといわれる周波数の短い高い声だけではなく、低い声をおりまぜることで、声という自然の音ではありながら、他の音とは異なった音として認識しやすく、注意を喚起する通信手段として最適だったのではないでしょうか。

また、たった一人で山小屋にこもっているのは心細く、大きな声や音を出して化け物の妄想を振り払っていたということも言われています。

南ドイツでヨーデルの起源について尋ねたとき、神の儀式を司る特別の力を持った人がヨーデルを歌ったという説もあると聞きましたが、スイス・アッペンツェル地方のジルベスターの祭りをとって見ても、そこで歌われるツォイエリという種類のヨーデルには、宗教儀式にかかわっていたということがあってもおかしくない荘厳な響きを感じさせます。

ヨーデルという歌い方は、頭声(コップフ・シュティンメ)と呼ばれる高い音と、胸声(ブルシュト・シュティンメ)と呼ばれる低音を、行き来しながら心地よく切り替えるものです。高音部は、普通の歌の発声と同じと考えてよいと思いますが、低音部は、俗に言う地声にあたり、クラシックなどの発声では認められない雑音含みの音を発しているので、下腹部でしっかり支えることによって、濁りを感じさせずに歌うことが要求されます。

スイスヨーデルは、かなり力強い胸声の上に、伸びやかな頭声を響かせるのが特徴です。オーストリアやドイツでみられる美しいメロディに軽やかに響くヨーデルとは、かなり色合いの違う音色だといえるでしょう。しかし、この土臭いともいえる力強さは、なんともいえない魅力で聴き手の心をグッと惹きつけます。

ドイツやオーストリアでは、ヨーデルはいまや風前の灯火、歌うことが出来る人でさえ人前で歌うことが極端に少なくなっていると聞いていますが、スイスでは事情が違います。

スイスの各町や村には、必ずと言っていいほどヨーデルのコーラスグループがあり、ヨーデルを歌い楽しんでいます。子どものヨーデル教室やコーラスグループも各地にあり、ヨーデル歌手や、指導者がきちんと指導しているのです。そして、若者から年配者まで幅広い年代のヨーデル歌いたちが伝統的な発声や歌唱技術を磨き、3年に一度のスイス連邦ヨーデルフェストへの参加を目指します。この大会は、毎年各地で行われる地方大会で実力を認められた者だけが参加を許されるもので、ヨーデル歌いが目標とする最大のお祭りなのです。毎回、一万人余のヨーデル歌いたちが参加する大きな大会ですが、ボランティアによって整然と運営される様子は、まことに見事なものです。これには、スイス連邦ヨーデル連盟の存在が大きく関わっているように思えます。厳格な規則を持って、ヨーデル、アルプホルン、ファーネンシュヴィンゲン(旗振り)という3つの伝統文化をしっかりと組織しています。このようなスイス特有の状況が、スイスヨーデルを生きた音楽として、次々と新しい曲を生む土壌を培っているのだと思います。

                                               著 伊藤 啓子(いとう けいこ)


 今後も音楽、楽器などいろいろと紹介していきたいと思います。
なにしろ意外と知られていないことが結構あるものなのです。
例えば「アルプホルン」。
「アルペンホルン」とか「アルプスホルン」などと呼ばれているのを巷で聞くとまだまだなのだなと感じます。
「クーグロッケン」もそう。「カウベル」でも間違いではないのですが 、そこはヨーロッパの音楽です。
なるべく現地の表記、読み方に沿っていきたいものです。

ということで、以後乞うご期待!